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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
05 第五部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页
そうした中で、だれの目にもついたのは次郎の変わり方であった。かれが無口になったことは、田川や大河などの比ではなかった。二十六日の研究会以来、よんどころない用件以外は絶対に沈黙を守っているといったほうが適当なぐらいであった。しかもそれは集会の場合にかぎられたことではなかった。廊下で塾生たちにあっても。目を伏せて通りすぎることが多かったし、塾長室や空林庵にも自分から顔を出すことはほとんどなく、行事がない時には、たいてい自分の室にとじこもっているといったふうであった。
このことが、朝倉先生夫妻の話題に上らないわけは、むろんなかった。二人は、しかし、いつもそれを塾の不安な将来と結びつけて考えていた。
「そりゃあ、むりもありませんわ。次郎さんにとっては、今ではこの塾だけが、ただ一つの世界ですものね。いつでしたか、ここを自分の死に場所にしたいなんて、本気でそう言っていらしったこともありますわ。」
「そんなことを言っていたのか、わかいくせに。元来それほど単純な男でもないが、打ちこむと馬車馬のようになるんで困る。」
「でも、あんなに純な気持ちになれるのは尊いと思いますわ。