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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
05 第五部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页
かれは何か言いわけでもするように言った。
「しかし、ぼくらがついて歩けば、それだけ費用もかかりますし、勝手には決められないでしょう。」
「それはだいじょうぶです。小母さんのお話では、その費用なら、田沼先生のお力でいくらでも出るところがあるんだそうです。」
次郎は、このことについて自分とはまだ何一つ話しあっていない朝倉夫人が、すでにそんなことまで大河に話しているのを知って、おどろいた。そのおどろきにはかすかに暗い影がさしていた。塾の建物を見まわして幼いころの寂しかった気持をそそられていたかれは、同時に、そのころ覚えた不快な嫉妬心をも呼びさまされていたのである。それはかれがとうの昔にのりこえていたはずの人間としての弱点であった。かれは、その弱点が今もなお心に巣くっているのに気づいて、ぎくりとした。弱点の反省は不快を二重にする。かれは大河から思わず眼をそらして、返事をしなかった。
すると大河が言った。
「本田さん、小母さんにあまり気をもませないほうがいいですよ。小母さんは今朝から、あなたのことばかり心配して、しじゅう様子を見ておいでですが、ぼく、気の毒に思うんです。