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しょうたい

正体

山本 周五郎

「アサヒグラフ」 1936(昭和11)年3月11日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,312 字 · 15 页

青空文庫

「三十二やそこらで後家になるなんて彼女もお気の毒や、あの器量やからはたで捨てちゃおくまいが、何かあれば尻軽や云われようし、いつまでここにおれば財産が欲しいのや云われようしな」

「財産なんて残ってるのか」

「仰山なもんやろ、なにしろ使った云うてもパリへ行ったくらいなもんやから」

「しかしこの半年ばかりだいぶ駄々羅遊びをしたそうじゃないか」

「杉田がかい? 阿呆なこと」

八木良太は知らなかった。

八木が読経の席へ去ってからも、津川は独り画室に残って画を見続けた。そして多くのものに共通する一つのことに気付いた、それは今しがた佐知子が津川を驚かした一種の精気――捉えがたい静かさ、妖気とでもいいたいものがどの画のうえにも現われていることである、そしてそれらの対照として一点だけ、八十号の裸体だけがまるでかけはなれているのだ、そこには明らさまな女が描かれてある、むしろ卑められるだけ卑めた『女』というほうが当っていよう、不道徳にまでそれが誇張されてあるのだ。

「これは失敗の作だから破いてくれ」

龍助が死ぬまえに云ったという言葉を、津川はべつの意味から考えてみたかった。

津川を驚かし、同時に龍助の多くの画に描かれている佐知子の妖しい精気というごときものは、六年まえ――いやすくなくとも龍助と結婚する以前の彼女にはかつてなかったもので