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しょうごのさつじん

正午の殺人

坂口 安吾

「小説新潮 第七巻第一〇号」1953(昭和28)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,888 字 · 28 页

青空文庫

「ピストルの音を知らなかったのかい?」

「知ってりゃ何とかしますよ。書生の勤務に於ては忠実な方ですからね」

「自殺の原因に心当りは?」

「ありませんね。そもそも文士には自殺的文士と自殺的でない文士と二種類あって、自殺的でない文士というものは人間の中で一番自殺に縁がない人間ですよ」

「殺される原因の心当りは?」

「僕が先生を殺す原因なら心当りがありませんよ。他人のことは知りませんね」

「君とアケミさんの関係は?」

こう突ッこんだ新聞記者の顔をフシギそうに眺めて、彼は呟いた。

「もしも僕たちが良い仲なら、先生の生存が何より必要さ。なぜなら、僕たちが同じ屋根の下に暮せるのは先生のおかげだからさ。僕のように生活力のない人間が、先生なしでアケミさんと同じ屋根の下で暮せやしないよ。アケミさんの顔を一目みれば分りそうなものだがなア」

「それで結局、良い仲なのかい?」

「僕がウンと云えば日本中の人を思いこませることができるらしいね」

彼は皮肉な笑いを残して立去った。

結局容疑者が三人できた。アケミと久子と木曾である。それに対して、文作の証言が甚だ重大な意味をもっことになったのである。