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しょうごのさつじん

正午の殺人

坂口 安吾

「小説新潮 第七巻第一〇号」1953(昭和28)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,888 字 · 28 页

青空文庫

「浮気は人に知られずに行うものさ。特に女房にはね」

「君たちは何よりも重大なことを見落しているのだよ。安川久子嬢は洗えば洗うほど可憐なお嬢さんの正体がハッキリでてくるばかりじゃないか。その久子嬢をなぜ全面的に信じようとしないのだろう? その原因の大きな一ツは君の存在さ。君自身は気づかないらしいが、安川久子嬢が犯人らしいと各新聞社に思われている最大の根拠は、矢部文作という新聞記者が十一時四十五分から十二時までの動かしがたい証言をしているからなんだよ」

「それは重々認めているよ。オレが神社の前で佇んでいた彼女のこと云ったばかりに」

「イヤ、それじゃない。君が神田家へ到着してから、つまり十一時四十五分から正午までだ。君は神田氏を見たわけじゃない。しかし、君も、そして人々も、君が神田氏を見たものと思いこんでいるのさ」

「神田氏はたしかに生きていたよ。その声をハッキリきいてる」

「然り。然り。君は声をきいてる。また口笛と、シャワーの音をね。ところが安川久子嬢はピストルの音をきかないと云いはるのだ。その日の異常は全てが音だぜ。ラジオも音だ。視覚については異常は起っていないのだ。