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しょうごのさつじん

正午の殺人

坂口 安吾

「小説新潮 第七巻第一〇号」1953(昭和28)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,888 字 · 28 页

青空文庫

そして、もし安川嬢を全面的に信頼するとすれば、どういう結論が現れると思うかね。即ち、いかにラジオの雑音があったにしても、隣室のピストルの音をききもらす筈がないということだ。彼女は広間の電話の音すらも聞きのがしていない。その彼女がいかなる瞬間といえども隣室のピストルの音を聞き逃すことがあるものか。さすれば結論は明瞭じゃないか。ピストルは彼女が神田家に到着後に発射されたものではないということだ」

「オレが広間にいる間にもピストルの音なんぞ聞きやしないよ」

「然りとすればピストルはそのまた前に発射されたにきまってるさ」

「しかし、アケミさんは神田氏と話を交しているじゃないか」

「死人と話のできる人が犯人にきまってるのさ。ちかごろはテープレコーダーというものが津々浦々に悪流行をきわめているのでね。ラジオの雑音でごまかすと、テープレコーダーで肉声の代りをつとめさせるのはむずかしいことではなくなったよ」

呆気にとられている文作に巨勢博士はやさしく云った。

「ねえ、君。かの楚々たる安川久子嬢のために奮起しながら、なぜ君は安川嬢の証言を全面的に信頼しようとしなかったのさ。