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しょうごのさつじん

正午の殺人

坂口 安吾

「小説新潮 第七巻第一〇号」1953(昭和28)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,888 字 · 28 页

青空文庫

「先生、シャワーが好きですね」

「そうなのよ。真冬でもやるんですよ。それで皮膚が若々しいのかしら」

アケミさんの顔が曇った。その顔を隠すようにそらして、

「あなた、電車で、美しいお嬢さん見かけなかった?」

「アッ。それだ。見ましたとも。神社のところまで一しょでしたよ。あの人、誰ですか」

「安川久子さん」

「やっぱりね。すごい美人ですね」

「ええ」

アケミさんはうかない顔だ。

「どうかしたんですか」

と文作がきくと、アケミさんは苦笑にまぎらして、

「イエ、なんでもないのよ。ただ先生が待ちかねて、きくものですから。お見えになったら居間へお通ししろッて。湯上りの素ッ裸でせきこんでるわよ」

「ストリップですな」

「ひどいわね」

そのとき呼鈴が鳴って、安川久子が訪れたのである。アケミはかねて云いつかっているから、大広間を横切って、久子を神田の居間へ通した。居間、寝室、浴室と小部屋が三ツ並んでおり、各々広間に通じる扉があるが、各室が横にレンラクできる扉もあって、浴室から寝室へ、寝室から居間へ、広間の人に姿を見せずに往復できるのである。アケミさんの心中、面白からぬのは無理がない。