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せいぎ
正義
浜尾 四郎
「新青年」博文館、1930(昭和5)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,327 字 · 43 页
「何故ですか。どういう理由からですか」
衣川はこの執拗な矢つぎ早の質問に対して、稍呆れたように清川の顔を見ながら答える。
「何故? 何故君がそんな事を僕にきくのか判らないが、一言で云えば、有罪とすべく証拠が薄弱だからだ」
いつの間にか衣川は立ち上って、ストーヴの前を歩きはじめている。
「清川、君は法律家でないから念の為に云っておくが、法律の精神、刑法の精神に従えば、僕が被告の無罪を証明する義務はないのだぜ。反之、検事の方は被告の有罪を積極的に証明しなければならんのだ。判事が有罪と言渡す為には勿論裁判所が有罪を証明しなければならん。従って、五分五分に見える場合、少しでも疑わしい場合は被告は絶対に無罪であるべきなのだ。之は我国ばかりではない。文明国のすべての制度がそうなっている。有名なクリッペン事件で、彼の情婦を弁護したバークネッド卿は、時のカウンセル・フォア・ゼ・クラウン(検事の役をする弁護士)たるリチャード・ミューア卿が自分に被告の無罪を証明する事を要求したと云って大に憤慨して本に書いて居る。弁護士は如何なる場合に於いても進んで被告の無罪を積極的に証明する義務はない。