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せいぎ
正義
浜尾 四郎
「新青年」博文館、1930(昭和5)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,327 字 · 43 页
それははっきりおぼえていないそうですが、頭のあった位置から後で考えると右手だったらしいのですが、その手がニュッと出ると手の中に紙の束のようなものをもっているのです。その中その手がいろいろに動きはじめたので、Aははじめて、誰かベッドの側に人が立っていて、腕の主はその人と何か話しているのだなと感じたそうです。
するとはたして、反対の側から黒いような洋服のらしい腕が出ました。ベッドの中の手とその手とがからみあいました。それから紙の束が、後から出た手にうつったのです。空になったベッドの手は、まだしきりに動いていろいろ話をしているようでしたがその中それがぱったりやんでしまったので、話が終ったのだな、とAは考えたそうです。之は面白いわい、と思って見て居る途端、ベッドの手が又出ました。今度はさきのピストルをもっています。あっと云うまにその右の手は、自分の頭にピストルの銃口をあてました。Aが思わず声をあげようとした時、他の見えない左手でかけ蒲団をひきずり上げたと見え不意に銃口も頭も半以上蒲団におおわれました。矛盾したような話ですがこの時Aは全体をはっきり知りたいために、グラスをはなして顔をつき出したそうですが、その刹那、にぶい音をきいたのです。