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わすれえぬひとびと

武蔵野

国木田 独歩

国木田独歩『武蔵野』。同一底本的分册已合并为一书。收入:忘れえぬ人々、置土産、おとずれ、河霧、郊外、小春、鹿狩り、詩想、初恋、初孫、星、まぼろし、遺言、わかれ。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,018 字 · 192 页

青空文庫

『僕らは一度噴火口の縁まで登って、しばらくはすさまじい穴をのぞき込んだり四方の大観をほしいままにしたりしていたが、さすがに頂は風が寒くってたまらないので、穴から少し下りると阿蘇神社があるそのそばに小さな小屋があって番茶くらいはのませてくれる、そこへ逃げ込んで団飯をかじって元気をつけて、また噴火口まで登った。

『その時は日がもうよほど傾いて肥後の平野を立てこめている霧靄が焦げて赤くなってちょうどそこに見える旧噴火口の断崖と同じような色に染まった。円錐形にそびえて高く群峰を抜く九重嶺の裾野の高原数里の枯れ草が一面に夕陽を帯び、空気が水のように澄んでいるので人馬の行くのも見えそうである。天地寥廓、しかも足もとではすさまじい響きをして白煙濛々と立ちのぼりまっすぐに空を衝き急に折れて高嶽を掠め天の一方に消えてしまう。壮といわんか美といわんか惨といわんか、僕らは黙ったまま一言も出さないでしばらく石像のように立っていた。この時天地悠々の感、人間存在の不思議の念などが心の底からわいて来るのは自然のことだろうと思う。

『ところでもっとも僕らの感を惹いたものは九重嶺と阿蘇山との間の一大窪地であった。