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むさしの

武蔵野

山田 美妙

「読売新聞」1887(明治20)年11~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,798 字 · 26 页

青空文庫

の推察が虫の息で活きている。それだのに涙腺は無理に門を開けさせられて熱い水の堰をかよわせた。

このままでややしばらくの間忍藻は全く無言に支配されていたが、その内に破裂した、次の一声が。

「武芸はそのため」

その途端に燈火はふっと消えて跡へは闇が行きわたり、燃えさした跡の火皿がしばらくは一人で晃々。

下

夜は根城を明け渡した。竹藪に伏勢を張ッている村雀はあらたに軍議を開き初め、閨の隙間から斫り込んで来る暁の光は次第にあたりの闇を追い退け、遠山の角には茜の幕がわたり、遠近の渓間からは朝雲の狼煙が立ち昇る。「夜ははやあけたよ。忍藻はとくに起きつろうに、まだ声をも出ださぬは」訝りながら床をはなれて忍藻の母は身繕いし、手早く口を漱いて顔をあらい、黄楊の小櫛でしばらく髪をくしけずり、それから部屋の隅にかかッている竹筒の中から生蝋を取り出して火に焙り、しきりにそれを髪の毛に塗りながら。

「忍藻いざ早う来よ。蝋鎔けたぞや。和女も塗らずか」

けれど一言の返辞もない。

「忍藻よ、おしもよ、いぎたなや。秋の夜長に……こや忍藻」にっこりわらッて口のうち、「昨夜は太う軍のことに胸なやませていた体じゃに、さてもここぞまだ児女じゃ。