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むさしの

武蔵野

山田 美妙

「読売新聞」1887(明治20)年11~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,798 字 · 26 页

青空文庫

具足の威は濃藍で、魚目はいかにも堅そうだし、そして胴の上縁は離れ山路であッさり囲まれ、その中には根笹のくずしが打たれてある。腰の物は大小ともになかなか見事な製作で、鍔には、誰の作か、活き活きとした蜂が二疋ほど毛彫りになッている。古いながら具足も大刀もこのとおり上等なところで見るとこの人も雑兵ではないだろう。

このごろのならいとてこの二人が歩行く内にもあたりへ心を配る様子はなかなか泰平の世に生まれた人に想像されないほどであッて、茅萱の音や狐の声に耳を側たてるのは愚かなこと,すこしでも人が踏んだような痕の見える草の間などをば軽々しく歩行かない。生きた兎が飛び出せば伏勢でもあるかと刀に手が掛かり、死んだ兎が途にあれば敵の謀計でもあるかと腕がとりしばられる。そのころはまだ純粋の武蔵野で、奥州街道はわずかに隅田川の辺を沿うてあッたので、なかなか通常の者でただいまの九段あたりの内地へ足を踏み込んだ人はなかッたが、そのすこし前の戦争の時にはこの高処へも陣が張られたと見えて、今この二人がその辺へ来かかッて見回すとちぎれた幕や兵粮の包みが死骸とともに遠近に飛び散ッている。