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ぶどうむもん
武道無門
山本 周五郎
「内蔵允留守」成武堂、1942(昭和17)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,130 字 · 24 页
追手もやがて騎馬で追跡して来た。両者のあいだにはかなり距離ができていたが、宮を通過すると間もなく、三人の馬が疲れをみせだしたのに反し、追手は馬を更えたとみえてぐんぐん距離を縮めて来た。「もうひと息です、鳴海まで、鳴海まで」小弥太は声を振絞って叫んだ。
鳴海の駅へ入ると共に、小弥太はその宿の立場へ乗りつけた。其処には乗替えが三頭、然も駿足が用意してあった。三人は馬を更えて再び東へ疾駆した。然しそれだけではなかった。更に池鯉鮒にも乗替えが待っていた。――そうか、是れだったのか。近づいて来る岡崎の山色を見ながら、忠善は馬上でなんども頷いた。――池鯉鮒でも、鳴海でも、ふいと何処かへいなくなった。逃げたなと思った。然し小弥太は万一に備えて馬を雇いに出たのだ。名古屋の宿で毎夜のように出掛けたのも、同じように馬を雇い、逃げ道、抜け裏をしらべるためだったのだ。――そして是れはみな、小弥太なればこそできたことだ。もっと豪勇の人間なら、恐らく考えもしなかったに違いない。日頃から臆病なればこそ、これだけの準備ができたのだ。……人間にはなんと多くの、それぞれの道のあることだろう。