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しね!

死ね!

豊島 与志雄

「文芸」1934(昭和9)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,979 字 · 18 页

青空文庫

そんな場合じゃあるまい。然し……漠然とした危懼が私を囚えていった。その危懼を打消すことで私は憂欝になった。

そこを出て、池のまわりを散歩するという二人に別れて、一人になると、私はなぜか首垂れて考えこんで歩いていた。あの二人を幸福にしてやりたい、勝手なことをしてる彼等ではあるけれど、真面目な仕事と生活とをなし得る彼等だ……そんなことを私は思い、漠然とした反撥心を世の中に対して懐いていた。社会の制度が重すぎるのではないか。

その夜遅く、彼が姿を現わした時、私はひどく悲しい気持になっていた。それは別離の悲しみに似ていた。

――旅に行くのか。

――行こうと思っている。

――死ぬのではあるまいね。

――安心し給え。僕には死ぬというような意志や決心は持てないのだ。然し、自然の死は致し方がない。

――反撥しようという気はないのか。

――何に対してだ。僕は自然を尊ぶ。反撥によって自然を歪めたくはない。

――自然に逃げこむのは卑怯だろう。

――或はそうかも知れない。人生は人為だからね。然し、いろいろなことに面倒くさくなると、純粋な自然というものが考えられてくる。

――それは意志の喪失だ。