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しまでをかたる

死までを語る

直木 三十五

「話」1933(昭和8)年9月号~1934(昭和9)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,739 字 · 85 页

青空文庫

大事にならぬ内にと、神戸の家へ返さしてしまったのである。

私は、病院を出ると、徳子さんから聞いていた武庫川の堤近く――芦屋の、徳子さんの家へ尋ねて行った。今の芦屋とはちがうから、何処の家にも、猛犬がいた。これが、がんがん吠える中を、訪ねて行ったが

「神戸の家にいなけりゃ多分、友人の宅にいるでしょう」

「友人の家は?」

「何処そこ」

それから、神戸の家へ行くと

「わかりません」

の一言だ。これは予期していたのだから、友人の所を訪ねると

「お別れになった方がいいでしょう。徳子さんは別れると申していますから」

「別れましょう。然し、一度、逢わしてくれませんか」

「妾の手では何うする事もできません。徳子さんのお母さんに、話しておきましょう」

夜になった。十一月の末だ。大阪までの終電車は、とっくに出てしまって、東明までしか行かぬという。金はぎりぎり電車賃しか無い。東明まで行って、それから先は歩いて、少しでも、明日の朝までに、電車賃を節約しておこうと、歩き出したが、とても寒い。

歩いたとて、いくら儲かる。それで、夜明けを待とうとしたが、十一月末の吹きっ曝しに、何うとも成るものではない。