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ぼしじょじょう
母子叙情
岡本 かの子
「文学界」1937(昭和12)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页
どんなにか、なつかしさに熱して、母を讃え、母をこの画家夫妻に立派に話しているかも判らない。かの女は身づくろいをしながら、どうかむす子がK・S氏の脳裡に与えているむす子の母の像を、自分は裏切り度くないものだと、しきりに念じた。
傲岸不屈の逸作も、同じようなことを感じているらしく、珍しく自分の方から、かの女の支度を促しに来ながら云った。
「いやになっちゃう。子供が世話になってる人というと、何だか急所を掴まえられているようで、一目置いちまう。人間もから意気地がなくなっちゃう」
K・S氏は思ったより若く、才敏な紳士であった。身なりも穏当な事務家風であった。しかし、神経質に人の気を兼ねて、好意を無にすまいと極度に気遣いするところは、世俗に臆病な芸術家らしいところがあった。若夫人はわきに添って素直に咲く花のように如才なく、微笑を湛えていた。
ホテルから早速案内した銀座の日本料理屋では、畳に切り込んであるオトシに西洋人夫妻と逸作は足を突込み、かの女一人だけ足を後へ曲げて坐って、オトシの上の食台に向っていた。窓からは柳の梢越しに、銀座の宵の人の出盛りが見渡された。