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ぼしじょじょう

母子叙情

岡本 かの子

「文学界」1937(昭和12)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页

青空文庫

瞬き盛りの銀座のネオンは、電車通の狭谷を取り籠めて四方から咲き下す崖の花畑のようだ。また、谷に人を追い込めて、脅かし誑かす妖精群のようにも見えた。

目をつけるとその一人一人に特色があって、そしてまた、特にこれが華やかとも思えない男女が、むらな雨雲のように押し合って塊ったり、意味なく途切れたりしつつ、大体の上では、町並の側と車道の側との二流れに分れて、さらさらと擦れ違って行く。すると、それがいかにも歓びに溢れ、青春を持て剰している食後の夜の町のプロムナードの人種になって、特に銀座以外には見られぬ人種になって、上品で綺羅びやかな長蛇のような帯陣をなして流れて行く。

「やあ」

「よう!」

「うまくやってる」

「どうしたん?」

「しばらく」

きれぎれに投げ散らされるブールヴァル言葉が、足音のざわめきにタクトされつつ、しきりなしに乱れ飛ぶ。扇屋、食料品店、毛皮店、組紐屋、化粧品屋、額縁店等々の店頭の灯が人通りを燦めかせつつ、ときどきの人の絶え間に、さっとペーヴメントの上へ剰り水のように投げ出される。

いつか、人混の中へ織り込まれていたかの女は、前後の動きの中に入って却って落着いた。