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ははおや

母親

豊島 与志雄

「読売評論」1951(昭和26)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,057 字 · 11 页

青空文庫

出来合いの女服と子供服が両側にずらりと掛けてある。その子供服の方へ信子は行って、縞模様を晩め、定価を見調べ、思案してはまた眺め、次第に奥へはいってゆく。突き当りの卓上には、反物が積み上げてある。そこから、一人の店員が出て来る。

「お子様のものでございますか。新柄がたくさん取揃えてありますが、お幾つぐらいでございましょう。」

信子は眼を大きくし、口を少し開いて、言葉もなく立ちつくす。どうしてこんな奥まではいり込んだのか、自分でもびっくりしてるようだ。

「今日は、ちょっと見ただけで、またにしますわ。」

呟くように言い、くるりと向き直って、店を出る。そして逃げるように、足早に立ち去って行く。

――吉岡はやけにピーナツを指先でおし潰し、そして酒を飲んだ……。信子よ、娘の衣裳を買ってやりたいというその気持ちは分るが、買う金もないのに、どうしてあのような店にふらふらとはいって行ったのか。なぜ抵抗しなかったのか。抵抗することによってこそ、人間は強くなる。娘の七つのお詣りをするのは、一向構わないが、そうだ、その通り、ふだん着のままで堂々とお詣りをなさい。

綺羅をかざったお詣りは、午前中に多いが、午後もなお絶えない。