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みずのしたのいし

水の下の石

山本 周五郎

「新武道」1944(昭和19)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,791 字 · 28 页

青空文庫

やや暫く休息してから、竹沢図書助が兵たちの間へ来て立った、そして力のこもった低い声で、当面している戦の目的を説明した、「……わが隊は明け七つを合図に興福寺城を攻める、攻口は搦手、追手には杉浦隊が当る、城兵はおよそ五百ということだが、鉄砲の数も多く矢だまの貯えも充分とのことだ、また城は深さ二丈の濠で囲まれているから戦は骨がおれると思う、しかもわれわれはどんなにながくとも二日で攻め落さなくてはならない、すなわち御旗もと本陣が諏訪ノ原攻撃の火蓋を切るまえに戦を終るのだ」図書助はそこでぐっと言葉を強くした、「……追手の杉浦隊は兵二百、わが隊を合わせて僅かに三百余人だ、およそ攻城のいくさは城兵に倍する勢力が必要だとされている、その常法からすればこの攻撃が苦戦だということは明瞭だ、けれども各自が二人ずつ殪して死ねば興福寺城は確実に味方のものになる、敵を全滅させることができれば味方も全滅してよいのだ、石にかじりついても敵二人は殪せ、わかったか」必ず二人ずつという表現が闘志を唆ったらしい、兵たちの上を眼にみえぬ風のようなものが颯とはしった、図書助はそれを見さだめると、なお半刻の休息を命じて説明を終った。