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みずのしたのいし

水の下の石

山本 周五郎

「新武道」1944(昭和19)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,791 字 · 28 页

青空文庫

七

のだ」

七

「戦場のまっ唯中で、敵と斬りむすんで死ぬことは、もののふにとってさしたる難事ではない……」図書助はしずかに続ける、「けれども水底の石に噛りついて、みずから溺れ死ぬということは考えるほどたやすくはないぞ、心はいかに不退転でもからだには苦痛に堪える限度がある、……呼吸が詰って来、耳、鼻、口から水がはいって、がまんも切れ神も悩乱するとき、それをふみ超えて溺れ死ぬというのはなみたいていのことではない、どんなに困難であるか、みんな自分をその水底に置いて考えてみろ」兵たちは眼を伏せ、頭を垂れた、図書助はふるえてくる声を抑えながらちょっと間をおいて言葉を継いだ、「……今日の勝ち戦は小弥太のたまものといってもよいだろう、そして戦場にはいつも、こういう見えざる死が必ずある、おのれを殺して味方を勝に導く、しかも人の眼にはつかない、小弥太の死にざまも水底を探らなければわからなかった、かれの死躰は誰にも知られず、石を抱いたまま水底の骨になるだろう、つわものの一人ひとりにこの覚悟があってこそ戦に勝つのだ、そしてこれこそはまことに壮烈というべきなのだ」隅のほうで堪りかねた