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みずとりてい
水鳥亭
「別冊文藝春秋 第一五号」1950(昭和25)年3月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,705 字 · 62 页
いま敵に追いつめられ、窮亡のドン底にある我々に、最大の財産はなんですか。言うまでもなく、自給自足しうる土地ですよ。田畑ですよ。いいですか。現在に於ては、そうなんです。しかし、平和恢復後の未来に於ては、田畑の値は下るでしょう。そのときに高値をよぶのは何でしょう。この土地に於ては、先ず第一に源泉にきまってるじゃありませんか。伊東の町にはどの住宅にも温泉がひいてあるかも知れませんが、源泉の数は知れています。おまけに、ここの湯は自噴ですよ。伊東に自噴の源泉なんて、いくつも有りゃしませんよ。大部分がモーターであげているのです。現在に於ける最大の財産と、未来に於ける最大の財産と、二つを一とまとめにして、しかもこれが空襲にも艦砲射撃にも絶対不変の財産ですが、それで一万が高すぎますか。私は親しくしていただいたあなたなればこそ、安くお譲りしようと思っているのです。一万円なら誰だって飛びつきますよ。しかし、見ず知らずの人に売るのでしたら一万円じゃ売りませんとも。失礼ながら、焼けだされて無一物となったあなたのために、すこしでも尽してあげたいと思ったのですよ。お別れすれば再びお目にかかる機会があるかどうか分りませんが、私としては、最後の友情のつもりなんです。