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みずとりてい

水鳥亭

坂口 安吾

「別冊文藝春秋 第一五号」1950(昭和25)年3月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,705 字 · 62 页

青空文庫

そこで、とうとう亮作は考え深い人のように顔をあげて言うのであった。

「先日、あちらから来た人にききましたが、網をやってますな。たしか、大謀網もやってるそうです」

野口はそれが亮作の挑戦であることを見抜くが、微笑を失いはしない。

「あちらッて、どこからの人ですか」

「え、沼津です。遠縁の者が、あそこの工場にいて、時々本社へ上京のたび、私のウチへ寄るのですが」

亮作はおどおどしている。亀の子のように怯えた顔である。今にも甲羅にひッこめそうだが、頑強に言葉をつづけるのである。

「大謀網は、うまくいく時は、ブリが四五万尾はいる。海の魚は無尽蔵ですな」

「沼津の大謀網は初耳ですな。沼津は漁場ではありませんよ」

「いえ、沼津ではないのです。あのへんにちかい漁場での話です」

亮作は泣きそうな断末魔の顔だが、必死に口をうごかす。哀れであるが、シブトく、にくたらしくもある。

野口の顔色が変る。息づかいが、はげしくなる。

「私はこの目で見ていますよ。あなたは耳にきいたことで、私が目で見たことを否定しようとなさるのですか」

亮作は沈黙する。

「太平洋の沿岸は敵の潜水艦でとりかこまれていますよ。