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ひょうが
氷河
黒島 伝治
1928(昭和3)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,824 字 · 42 页
一
市街の南端の崖の下に、黒龍江が遥かに凍結していた。
馬に曳かれた橇が、遠くから河の上を軽く辷って来る。
兵営から病院へ、凍った丘の道を栗本は辷らないように用心しい/\登ってきた。負傷した同年兵たちの傷口は、彼が見るたびによくなっていた。まもなく、病院列車で後送になり、内地へ帰ってしまうだろう。――病院の下の木造家屋の中から、休職大佐の娘の腕をとって、五体の大きいメリケン兵が、扉を押しのけて歩きだした。十六歳になったばかりの娘は、せいも、身体のはゞも、メリケン兵の半分くらいしかなかった。太い、しっかりした腕に、娘はぶら下って、ちょか/\早足に踵の高い靴をかわした。
「馭者! 馭者!」
ころげそうになる娘を支えて、アメリカ兵は靴のつまさきに注意を集中して丘を下った。娘の外套は、メリケン兵の膝頭でひら/\ひるがえった。街へあいびきに出かけているのだ。娘は、三カ月ほど、日本兵が手をつけようと骨を折った。それを、あとからきたアメリカ兵に横取りされてしまった。リーザという名だった。
「馭者!」
「馭者!」
麓の方で、なお、辻待の橇を呼ぶロシア語が繰りかえされた。