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ひょうが
氷河
黒島 伝治
1928(昭和3)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,824 字 · 42 页
しばらく、さら/\と降る雪の音ばかりがあった。
「一っぺん病院へ引っかえせ!」相変らず、軍医の声は悄然としていた。
「雪が降るからですか?」
誰れかがきいた。
「うゝむ。」
「じゃ、雪がやんだら帰れるんですね?」
返事がなかった。
軍医の云ったことが間違いでないのを確めた看護卒は、同じ言葉を附近の負傷者に同情を持たぬ声で繰りかえした。
栗本は、脚がブル/\慄えだした。
「俺等をかえさんというんじゃあるまいな?」
田口は、また困ったような顔をして答えなかった。
栗本は、一本の藁にでもすがりたい気持をかくして、殊更、気軽く、
「こっちの中尉がメリケン兵を斬りつけたんが悪かったんかい?」と重ねてきいた。
「あゝ。」田口は気乗りのしない返事をした。「それで悶着がおこってきたんだ。」
「だって、あいつら、偽札を使ってたんじゃないか。」
田口は、メリケン兵を悪く云うのには賛成しないらしく、鼻から眉の間に皺をよせ、不自然な苦い笑いをした。栗本は、将校に落度があったのか、きこうとした。が、丁度、橇からおりた者が、彼のうしろから大儀そうにぞろ/\押しよせて来た。彼は、それをさきへやり過ごそうとした。