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こおりぐらのにかい

氷蔵の二階

宮本 百合子

「女性」1926(大正15)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,201 字 · 37 页

青空文庫

「いやいや郊外はいや。――今日は。ギュ、と殺されたりするの私御免さ」

彼等は、薄暗い露台の方で顔を拭いた。

「――お房さん、ずっといたの? うちに――」

「一寸出たわ」

「明日降られちゃやりきれないな」

大垣が先に室に戻った。彼は、房がやっている絹糸の編物に触った。

「お房さん、編物がお得意だな、この前のと違うんでしょう、これ」

「違うわ」

「何なの? 何が違うって?」

志野が遠くから口を挾んだ。

「編物さ――冬んなったら、僕も一つしゃれた襟巻でも編んで貰おうかな」

髪をかき上げながら入って来た志野が、

「襟巻なんぞなら、私編んだげてよ」

と云った。

「ほほう」

志野は、さっと赧くなった。

「何が、ほほう?」

「――ほほうだから、ほほう、さ」

「こいつめ!」

「静かにしなさいよ! 今頃」

ふざけかけた二人は、びっくりしておとなしくなった。房は、むっとしたように下を向いたまんま、途方もなく速く編針を動かしている。志野が、くつくつ笑い、大垣に目交せした。大垣もにやにやして頷いた。その途端、房がひょいと頭をあげて二人を見た。

「ふわあ、恐ろしや」

これには房も笑った。

「さ、また明日があるから寝ましょうか。