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えがわらんこ
江川蘭子
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1930(昭和5)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,151 字 · 23 页
と云う意味は、父母の闘争時に於けるはつらつさは、どうして、ヴァイオリンの奏で出だす恐怖音の如きなまやさしいものではなかったからである。
その闘争が激しくなった時には、赤ちゃんは最早や一個の物体に過ぎなかった。西洋流に云うと一本のパンのし棒に過ぎなかった。つまり生物としての存在を失ってしまうのである。具体的に云うと、甚だしい場合には、彼女の父母は、半間乃至一間の距離で蘭子の柔い肉塊を、ゴムまりみたいに抛りっこするのである。その時こそ我が江川蘭子は、「支持の滅失」を心行くばかり味うことが出来たのである。
ところで、右の如き事情のみであったなら、江川蘭子は、生長の後、恐らくはダイヴィングの大選手になったことであろうが、彼女の幼時の印象群の内には、この物語を成功小説に終らしめぬ所の、少々毒々しいものがあった。
と云うのは、第一に(この作者は指折り数えることが好きである)彼女の二十三歳の父はアメリカ風の瀟洒たる悪漢であり、彼女の母は飛び切り美しいけれど、近代風の貞操盲目者であったからである。
彼女の父は、日頃口癖の様に「ダグラス・フェアバンクスとなって、王侯貴族の生活をするか、でなければ、第二世仕立屋銀次になり度い」