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さばくのこと
沙漠の古都
国枝 史郎
「新趣味」博文館 、1923(大正12)年3月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,076 字 · 220 页
「それで私達民間探偵にご依頼なさろうとなすったので? いやよく事情はわかりました。出来るだけお力になりましょう」
「どれほど費用はかかりましても、その点はご心配くださいませんように」
夫人は云って口ごもった。レザールは頷いたばかりである。でまた二人は黙り込んだ。
「それで」とレザールは重々しく、「ご依頼の件は怪物が今後一切窓の側へ現われないように警戒する――ただそれだけでございましょうか?」
夫人はちょっと躊躇したが、
「はい、ただそれだけでございます」
「怪物の正体は何であるか? 何故窓の側へあらわれたか? 閣下が怪物を見られた時、何故独り言を洩らしたか? そして何故卒倒なされたか? 調べる必要はございますまいか?」
夫人はまたも躊躇したが、
「いいえ必要はございません」
レザールはその眼をグルグルと廻し、彼独特の悪戯児のような、無邪気だけれど意地の悪い、微妙な笑いを洩らしたものの、夫人の悄れた様子を見るとすぐその笑いを引っ込ませた。
彼は母指の爪を噛み――彼の一つの癖である――天井の方へ眼をやりながら、かなり長い間考えていた。それから夫人へ質問した。
「奥様、あなたはご良人といつ頃結婚なさいましたな?」