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さばくのこと
沙漠の古都
国枝 史郎
「新趣味」博文館 、1923(大正12)年3月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,076 字 · 220 页
全くそれは私にとっては産まれて初めての恐怖であった。
しかし間もなくその次に起こった「あり得べからざる奇怪の事件」「人類学上の一大奇蹟」その怪事件に比較してはほとんど恐怖とは云えないかもしれない。
「人類学上の一大奇蹟」! それはいったいいつ起こったのかというに、鹿を呑む大蛇を眼に見てから十日ほど経ったある日のことで、その日私は小屋に籠もって煙草ばかりポカポカ吹かしていた。小屋の外では山羊や猿や独唱好きの小鳥などが、私を呼び出そうとするかのように賑やかに絶え間なく喋舌っている。風もないかして林の中は森然と静まり返っている。
彼らの呼び出しに応じようともせず私はいつまでも室にいた。
するとにわかに彼らの声が糸を切ったように断ち切れた。糸を切ったように絶えた時にはいつでも恐ろしい彼らの敵が彼らを襲う時である。何物が襲って来たのだろうと私は耳を傾けた。その時遙か林の方から不思議の叫び声が聞こえて来た。林に住むようになって以来かつて一度も聞いたことのない得体の知れない声である。悪漢に襲われた若い女が必死の場合に上げるような物凄い断末魔の叫び声に似てそれより一層悲しそうな声だ。