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さばくのこと
沙漠の古都
国枝 史郎
「新趣味」博文館 、1923(大正12)年3月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,076 字 · 220 页
モスクバ訛りの鼻声で声高に話している夫婦者、病身らしい十八、九の蒼ざめた娘はその横の方でじっと黙って聞いている。恐ろしいほどによく肥った宝石商らしい老人は、自分の前に腰かけている貴公子風の美男子をとらえて、パミール高原で見つけたという黒金剛石の話しを話している。その横の方では支那商人が、あたりの様子には無関心に、琥珀のパイプで雲南煙草をポカリポカリと喫っている。見廻りのボーイがやって来ると周章ててパイプを隠すのであった。小露西亜あたりの地主らしいむんずりと肥えた四十男は先刻から熱心に玻璃窓を通して日没の曠野の光景を一人黙って眺めていたが、やがてポケットから骨牌を出して一人で占ないをやり出した。蒙古の豪族とも思われる五人の伴を連れた老人は、卵型をした美貌を持った妙齢の支那美人を側へ引き寄せ仲よく菓子を食べている。五人の従者はその様子を東洋流の無表情の眼でむしろ慇懃に眺めている。トルキスタン人の一団はずっと向こうの客車の隅で、何か間違いでも起こったと見えて、口やかましく論じている。そのトルキスタン人の一団を左手に見た片隅に、土耳古型の美貌の持ち主の問題の女がいるのであった。