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さばくのこと

沙漠の古都

国枝 史郎

「新趣味」博文館 、1923(大正12)年3月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,076 字 · 220 页

青空文庫

きわめて豪奢な狐の毛皮の大型の外套をふっくりと着て体全体を隠してはいるが、強靱な、それでいてスラリとした、きゃしゃではあるが弾力のある、素晴らしく優秀な肉体が外套を通してうかがわれる。いちじるしく目立つのはその帽子だ。それは深紅の土耳古帽で、帽子を洩れて漆黒の髪が頸へ幾筋かかかっている。匂うばかりの愛嬌を持った。それでいて鋭い鋼鉄の眼、羅馬型ではない希臘型の、顫えつきたいような立派な鼻、その口は――平凡な形容だが――全く文字通り薔薇のようだ。可愛らしく小さい紫色の靴、形のよい細っそりとした黄色い手袋……

彼女は新聞を膝へ置いてちょっと小首を傾げた後、側のバスケットの蓋をあけて中から林檎を取り出した。それから彼女は手袋を脱いで林檎の皮をむき出した。露出した手首が陽に焼けて鳶色を呈していることは!

「ね」とラシイヌはダンチョンに云った。「どうしても怪しい女だよ。あれだけの美貌とあれだけの服装。どう踏み倒しても命婦だね。土耳古皇帝の椒房にいる最も優秀なる命婦だよ。皇妃と云ってもいいかも知れない。ところがどうだい、あの手の色は! まるっきり労働者の手の色だ……でそこで僕は思うのだ。