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さばくのこと

沙漠の古都

国枝 史郎

「新趣味」博文館 、1923(大正12)年3月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,076 字 · 220 页

青空文庫

朝のお茶の時に食堂で良人の顔を見ましたところ、大変蒼いじゃございませんか。どこかお体でもお悪くて? 私が訊きますと首を振って、いいやと一言云ったきり、黙ってお茶をのむのでした。そこへ新聞が来ましたので何気なく取り上げて見ましたところ、思いあたる記事がございました。燐光を放す巨大な獣が、昨夜市中にあらわれて、府庁官邸の宅地まで来ると消えてしまったという記事です。私はハッと思いました。それでは昨夜窓に映った銀色をしたあの光は、さては怪獣の光だったのかと……。

『あなたは昨夜変な光を窓からごらんになりませんでして?』私は良人に訊いてみました。すると良人はひどく顫えて蒼白になったじゃありませんか! けれど変化したその表情は、すぐに良人の強い意志で抑えられてしまったのでございますね。良人は冷静にこう云ったものです。

『いいや、そんな光は見なかったよ』

それで私は新聞の記事を良人の方へ向けまして、

『昨夜二時頃この町へ怪獣が出たそうでございますね』

『ふうむ、怪獣? どんな怪獣?』良人は益※(二の字点、1-2-22)冷静に、『町の人達の錯覚だろう。燐光を放す獣なんかこの世にある筈はないからな』