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さばくのこと

沙漠の古都

国枝 史郎

「新趣味」博文館 、1923(大正12)年3月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,076 字 · 220 页

青空文庫

張教仁は闇の中で、こう不機嫌に呟いた。すると、その時、走りに走った怪物のような自動車はさすがに疲れたというように、徐々に速度を弛め出した。

するとその時、行手の方で、厳めしい門でも開くような、ギギ――という音が聞こえて来た。そして、どうやら自動車は、その門の中へはいったらしく、一層速度が弛やかになった。やがて間もなく停まったのである。

突然自動車の扉が開いた。車外もやっぱり真っ暗である。

張教仁は躊躇もせずヒラリと自動車から飛び出した。

こうして物凄い「死の自動車」から、張教仁は遁がれたけれど、その後も彼の身の上には、死の自動車よりも恐ろしい、奇怪な事件が頻出した。しかも、同じその夜のうちに。そしてその事件に対しては、張教仁は次のように、自分の備忘録へ書き記した。

(張教仁の備忘録)……私は自動車から下りたけれど、あたりが余り暗いので、どうすることも出来なかった。ここは建物の中らしい。その証拠にはどっちを見ても、月影も星影も見えようともしない。そして建物は大きいらしい。どっちへ向いていくら歩いても、板にも壁にも触ろうともしない。どんなに寂しく、建物の中で、私は立っていたことだろう。