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かわあかり

河明り

岡本 かの子

「中央公論」1939(昭和14)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页

青空文庫

ふだんの繁劇な都会の濠川の人為的生活が、雪という天然の威力に押えつけられ、逼塞した隙間から、ふだんは聞取れない人間の哀切な囁きがかすかに漏れるのを感ずるからであった。そして、これは都会の人間から永劫に直接具体的には聞き得ず、こういう偶々の場合、こういう自然現象の際に於て、都会に住む人間の底に潜んだ嘆きの総意として、聴かれるのであった。この意味に於て、眼の前見渡す雪は、私が曾て他所の諸方で見たものと違って、やはり、東京の濠川の雪景色であった。

小店員が入って来て、四五通の外文の電報や外文の手紙を見て呉れと差出した。

「まことに済みませんが、店の者みんな出払ちゃいましたし大旦那にもお嬢さんにも寝込まれちゃいましたので……」

大切な急ぎの用だと困るというので私が見たその注文の電報や外文は南洋と云われる範囲の各地からだった。その一つには、

板舟。鯛箱。

卸し庖丁大小。鱈籠。

半台。河岸手桶。

計りザル。油屋ムネカケ。

打鉤大小。タンベイ。

足中草履。引切。

ローマ字から判読するこれ等は、誰か爪哇で魚屋を始める人があって、その道具を注文して来たのだった。

一礼して去る小店員に向って、私は、