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かわあかり
河明り
岡本 かの子
「中央公論」1939(昭和14)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页
定刻の時間になったので私は帰った。
あくる日は雪晴れの冴えた日であった。昨日から何となく私の心にかかるものがあって私は今までになく早朝に家を出て河岸の部屋へ来た。そしてやや改まった様子で机の前に座っていると、思いがけない顔をしてやまがはいって来た。私は早く来たことについて好い加減な云いわけを云ったのち天井を振り仰ぎ乍らやまに向って、
「どなたかこの上のお部屋にいるの」と訊いた。
やまは「はあ」と答えた。
私の心の底の方にあった想像が、うっかり口に出た。
「お嬢さんでもいらっしゃるのではないの」
すると、やまの返事は案外、無雑作に、
「はあ、昨日もお昼前からいらっしゃいました」と云った。
「どういうお部屋なの」
やまは「さあ」と云ったが、実際、室の中の事は知らないらしく、他の事で答えた。
「昨日の大雪で、あなたはお出にならないでしょうと、お嬢さんは二階のお部屋へお入りになりました。晩方、お部屋から出ていらっした時、私があなたがおいでになったのを申上げると、とても、落胆なすっていらっしゃいました。時々お二階の部屋へお嬢さんはお入りになりますが、その時はどんな用事でもお部屋へ申上げに行ってはならないと仰いますので……」