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かわあかり
河明り
岡本 かの子
「中央公論」1939(昭和14)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页
私には判った。それは娘の歎きの部屋ではあるまいか、しんも根も尽き果てて人前ばかりでなく自分自身に対しての、張気も装いも投げ捨てて、投げ捨てるものもなくなった底から息を吸い上げて来ようとする、時折の娘の命の休息所なのではあるまいか。
だが、ときどきにもせよ、そういう一室に閉じ籠れるのは羨しい。寧ろ嫉ましい。自分のように一生という永い時間をかけて、世間という広い広い部屋で、筆を小刀に心身を切りこま裂いて見せ、それで真実が届くやら、届かぬやら判りもしない、得体の知れない焦立たしいなやみの種を持つものは、割の悪い運命に生れついたものである。
「で、今朝お嬢さんは?」
と私が云うと、やまは俄に思いついたように、
「ああそうでしたっけ、お嬢さんが今日あなたがいらしったら、お二階へおいで願うように申し上げて呉れと先程お部屋へ入るまえに仰いました」
やまはここまで云って、また躊躇するように、
「でも、お仕事お済ましになってからでないとお悪いから、それもよく伺って、ご都合の好い時に……って……」
私は一まずやまを店の方へ帰して、一人になった。
河の水は濃い赤土色をして、その上を歩いて渡れそうだ。