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かわあかり
河明り
岡本 かの子
「中央公論」1939(昭和14)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页
シャンデリヤは点け放しにしてあるので、暗くはなかった。
思いがけない情景のなかで突然、娘に逢って周章てた私の視覚の加減か、娘の顔は急に痩せて、その上、歪んで見えた。ウェーヴを弾ね除けた額は、円くぽこんと盛上って、それから下は、大きな鼻を除いて、中窪みに見えた。顎が張り過ぎるように目立った。いつもの美しい眼と唇は、定まらぬ考えを反映するように、ぼやけて見えた。
娘は唇の右の上へ幼稚で意地の悪い皺をちょっと刻んだかと見えたが、ぼやけていたような眼からは、たちまちきらりとなつかしそうな瞳が覗き出た。
「…………」
「…………」
感情が衝き上げて来て、その遣り場をしきりに私の胸に目がけながら、腰の辺で空に藻掻かしている娘の両方の手首を私は握った。私は娘にこんな親しい動作をしかけたのは始めてである。
「何でも云って下さい。関いません」
私のこの言葉と、もはや、泣きかかって、おろおろ声でいう娘の次の言葉とが縺れた。
「あなたを頼りに思い出して、あたくしは……却って気の弱い……女に戻りました」
そして、どうかこれを見て呉れと云って、始めて私をカーテンの内部へ連れ込んだ。