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かわあかり

河明り

岡本 かの子

「中央公論」1939(昭和14)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页

青空文庫

河に突き墜された雪の塊が、船の間にしきりに流れて来る。それに陽がさすと窈幻な氷山にも見える。こんなものの中にも餌があるのか、烏が下り立って、嘴で掻き漁る。

烏の足掻きの雪の飛沫から小さな虹が輪になって出滅する。太鼓の音が殷々と轟く。向う岸の稲荷の物音である。

私は一人になって火鉢に手をかざしながら、その殷々の音を聞いていると、妙にひしひしと寂しさが身に迫った。娘の憂愁が私にも移ったように、物憂く、気怠るい。そしていつ爆発するか知れない焦々したものがあって、心を一つに集中させない。私は時を置いて三四度、部屋の中を爪立ち歩きをして廻って見たが、どうにもならない。やまは娘が、私の仕事時間を済ましてから来て欲しいと言伝てたが、いっそ、今、直ぐ独断に娘を二階の部屋へ訪ねてみよう――

二階の娘の部屋の扉をノックすると、私の想像していたとはまるで違って見える娘の顔が覗いて、私を素早く部屋の中へ入れた。私の不安で好奇に弾んだ眼に、直ぐ室内の様子ははっきり映らない、爪哇更紗のカーテンが扉の開閉の際に覗かれる空間を、三四尺奥へ間取って垂れ廻してある。戸口とカーテンのこの狭い間で、娘と私はしばらく睨み合いのように見合って停った。