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ぬまのほとり
沼のほとり
豊島 与志雄
――近代説話――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,788 字 · 16 页
女主人もいっしょに食卓につきました。
「秋になりましてからの、こんな霧は珍らしゅうございますよ。」
彼女は箸を休めて、硝子戸越しに外を見やりました。
ふだん着の、どことなく淋しげな、彼女の姿を見ていますうち、八重子は、昨夜からまだ一言も、お互いの身の上については触れていないのを、胸に浮べました。そして、そちらへ話を向けますと、相手は、巧みに外らしてしまいました。それでも彼女がもとは芸妓だったこと、今では歌沢の師匠をしていて、僅かな弟子があるので、三日に一度は東京に出ていること、などを八重子は知りました。
ただ、彼女はしんみりと、こんなことを言いました。
「あたくし、過去に、いろいろと、人様に御迷惑をかけたこともございます。それから、自分で、胸の晴れないこともございます。そういうことのために……いいえ、ただ退屈すぎるのでございましょうか、部隊に面会に来られました方で、お困りなさっている方を見受けますと、時たま、泊めてあげたくなりますの。」
そして彼女は暫く口を噤みましたが、俄に、頬をちょっと赤らめました。
「ほんとに、こんなところへ御案内しまして、却って、御迷惑でございましたでしょう。