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うたかたのき

泡沫の記

久生 十蘭

(ルウドイヒ二世と人工楽園)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,889 字 · 26 页

青空文庫

博士がなぜそんな死にかたを選んだのか、それは他人の知らぬことで、とやかくと考えまわすのは余計なことだが、われわれが疑問に思うのは、それほどの争いをしながら、王も博士も叫び声ひとつたてなかったというそのことである。

昨日は、薄曇ったものしずかな夕方で、そういうときには、小さな物音でも、場所によっては遠くの岸まで聞えるものだから、もしどちらかが叫び声をあげたら、現場の東西、一キロ以内にいた人間の耳に入っていないはずはない。事件のあった時刻を七時前後とすると、ちょうどその時間に、五十メートルほどうしろの並木道を、二人の憲兵が巡回していたが、その二人はなにも聞いていないところをみると、ついぞ叫声らしいものもあげなかったのだと思われる。

王の側には、自殺にたいする強烈な欲求があった。それは、もうわかっている。

前日、重臣団を皆殺しにもしかねないほど激発していたのに、翌日、眼にみえて温柔なようすを示し、極めて愛想がよくなった。心の中に、なにか深い企みがあるものは、誰しもそういう装いをするもので、つまりは、王は上手に博士を欺したわけなのである。

山の城に着いた夕方、最初の散歩が無事に終ったとき、博士は侍従に、「王は間もなくこの環境にお馴れになるだろう。