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りゅうこうさっかのし
流行作家の死
野村 胡堂
「新青年」1932(昭和7)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,876 字 · 28 页
別居して居る夫人の浪子と、懇意な立花秀子も一応は取調べられましたが、どちらも上等過ぎるほどの不在証明を持って居る為に、告発することなどは思いもよらなかったのです。
里方に引取られた浪子は、薄情な夫、小栗桂三郎を怨み抜いて居りましたし、家もそんなに遠くはありませんが、何分ひどいヒステリーで、その晩は特に発作が猛烈だったので、年取った母親が、一刻も目を離さなかったと証言して居ります。
立花秀子の方は、これも渋谷の終点近い有名なアパートで隣室に居る女流詩人の鼎咲子と十時過ぎまでお茶を飲んで無駄っ話をして、それから自分の部屋へ帰って、締切に追っ立てられて居る原稿を書いて、十二時近くなってから、お隣りの鼎女史と「お休み」を交換して寝台に入ったと言うのです。
二人の笑い声は、廊下まで聞えて居りましたし、立花咲子がそれからズーッと原稿を書いて居たらしいことは、逆上性で、冬も半分は窓を開けて置くので、鍵の手になった建物の向う側からも、よく見えて居りました。
その外、文壇的にも敵の無い小栗桂三郎の書斎へ、煙の如く潜入して、青酸を口の中へ流し込む者があろうとは思われません。