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うかぶひこうとう

浮かぶ飛行島

海野 十三

「少年倶楽部」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 124,009 字 · 249 页

青空文庫

彼にはこの白い長上衣が一向似合っていなかった。それも道理、この白人の男こそは、この飛行島の無頼漢ヨコハマ・ジャックなのだ。ジャックがこんなところに詰めているわけは、読者諸君もすでにお気づきのとおり、日本語しかわからない杉田二等水兵の通訳をするためだった。ジャックは永いこと横浜に暮していて、べらんめえ調の歯切のいい日本語――というよりも東京弁というかハマ言葉というかを上手にしゃべった。

だがこの新米の通訳先生は、手もちぶさたの態で、ぼんやりと杉田水兵の枕許にある美しい花の活けてある瓶をみたり、そしてまた若い看護婦の顔を穴のあくほどじろじろ見たりしていた。それも道理、彼の用事は一向出てこないのだ。というのは、寝台の上に横たわっている杉田二等水兵が、まるで黙ったきりで、何を話しかけてもうんともすんともいわないからである。

ジャックは、さっきから怪しい手つきばかりを繰返している。彼は右手をポケットへ持っていっては、そこから何かを引張りだそうとしては、急に気がついたようにはっと手を元へかえすのである。そのポケットの中には、煙草の箱が入っていた。煙草を吸いたくて手がひとりでにポケットにゆくが、この病室では煙草を吸ってはいけないというきついお達しを急に思いだしては手を戻すのであった。