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かいりゅう
海流
宮本 百合子
「文芸春秋」1937(昭和12)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,977 字 · 72 页
「もし母様がそんなんなら、私、もう本当に、本当に、同情なんかしやしないから!」
宏子は女の歴史的な苦しみの一つとして母がこのことで苦しむのならば、娘である自分も堪え、皆も堪えさせようと心をきめて見ているつもりであった。どうなるのか、どんな破局がおこるのか。そこには恐怖がある。それでも母は本心に従ってやったらいい。宏子は一生懸命で気力を集めてその考えに到達していた。だのに瑛子自身が、妙に体を捩くらしたような態度でいいかげんな風に喋るのを見ると、宏子は我慢がならない気がした。瑛子は瑛子で、自分の本心を素直に掴むことを知らず、同時に粗暴な形であらわされる娘の健全なものも分らず、ただ自尊心を傷けられたという憤怒を、偽善というような言葉の上に集中した。
「お前もこの頃はやりの物質論者だ」
到るところで耳目に触れるようになって来ている唯物的という言葉を、瑛子は間違った内容にとりちがえて云った。
「大方私が不自由なく食べていられるのがいけないとでも云うんだろう。父様に食わして貰っているくせにと云うんだろう。この家を今日までにしたのが父様一人の力だとでも思っているんなら、念のために云っておくがね。