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かいひんそうのさつじん
海浜荘の殺人
山本 周五郎
「少年少女譚海」博文館、1938(昭和13)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,672 字 · 18 页
「苅田ならこんな時相談する事が出来るかも知れないのに、いつ帰って来るのかしら」
「しいちゃん、入っても宜いかい?」
扉の外で高野千之の声がした。――夕食から二時間も経って、もう時計は九時に近い。いけません、と云おうとする間に、千之は扉を開けて入って来た。
「淋しい晩だね、エル……いけな、口癖になってるものだから。御免よ」
「千ちゃんでも淋しい事あるの?」
「有るさ、ほんの時遇だがね、淋しくて堪らない時があるよ、――殊に今夜はね!」
「どうして今夜なの!」
「君は嗤うかも知れないが」
千之は窓の近くへ歩寄って、暗い庭を昵と見やりながら云った。
「なんだか今夜は変なんだ。些っとも落着かない。後から絶えず追いかけられているような気持だ。前にもこんな気持を感じたことがある。慥に、そしてよくは覚えていないが、不吉な事が起ったようだ」
「不吉な話なんて沢山よ」
「――僕もさ。……厭な気持だ。ねえしいちゃん、一緒に藤沢へ行ってみないか」
「厭よ」
「そう云うと思ったよ」
千之は淋しそうに笑って、二三歩部屋の中を歩き廻っていたが、やがて、
「堪らない、是じゃア迚も今夜は眠れそうもないし、――藤沢の由村の処へ行って将棋でも指して来よう」