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かいひんそうのさつじん

海浜荘の殺人

山本 周五郎

「少年少女譚海」博文館、1938(昭和13)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,672 字 · 18 页

青空文庫

独り言のように呟くと、

「じゃアおやすみ」と云って静かに出て行った。

――あの人どうしたのかしら。

脅迫状の噂で心配している時も時、いつにない高野千之の妙な素振を見て、志津子の不安は一層強くなった。

――いっそお祖父さまにお話してみようかしら?

否えいけない、折角御気分が好くなっていらっしゃるのに、こんな事をお聞かせするなんて法はないわ。強く頭を振った志津子は、やがて小間使のまさやを呼んで寝衣に着替え、読みさしの本を持って寝台へあがった。

十一時を聞くまでうつらうつらしていたが、いつか眠ったらしい。何処かでずどーんと無気味な物音がしたのではっと眼が覚めると、丁度壁の時計が一時を打った。

――妙な音がしたようだけど。

寝台の上へ起直ると、続いて何処かでばたんと扉の閉る音がした。

――お祖父さまのお部屋だわ。

そう思ったので、寝衣の上から寛衣を引掛け、寝室を出ると急いで老子爵の部屋へ馳けつけた。

「お祖父さま、お眼覚め?」

扉を叩きながら呼んだ。

「…………」

「お祖父さま、まだお眼覚め?」

「…………」

返事は無かった。――若しや? と思うと矢も盾も堪らず、扉を押開いて中へ入った。