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あざらしとう
海豹島
久生 十蘭
「大陸」1939(昭和14)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,311 字 · 48 页
この年は、例年になく寒気がきびしかったので、海氷の成長がいちじるしく、氷原の縁辺から海岸までは四浬以上もあり、島に行くには、橇か、徒歩によるほかない。この厄介な事情が、いっそう憂鬱をつのらせた。島の査察は重大な仕事だったが、さまざまに迷ったすえ、部下の技手に事務を代行させることに肚をきめ、正午近く、米、野菜、その他、若干の食糧を積んだ橇とともに島へ出発させた。
一、部下の復命を得次第、※(「勹<夕」、第3水準1-14-76)々、離島して、一旦、敷香まで行き、そこから陸路帰庁するつもりで、船長室の煖炉の傍に坐っていたが、まもなく帰船した部下の報告によって、この島に椿事のあったことを知り、予定した行動をとることができなくなった。
それは、今年一月四日の夜、乾燥室から火を失し、塩蔵所の一部と人夫小屋を除く以外、全部の建物が烏有に帰し、狭山良吉という剥皮夫が一名生き残ったほか、清水技手以下五名が焼死したという椿事である。それで、責任上、仔細に事件を調査し、その結果を上長ならびに警察部に報告すべき義務が生じたが、便乗して来た第二小樽丸は、逓信省命令航路の郵便船で、遠浅、遠内、敷香などの町に送達する郵便物を積んでいるため、調査が終るまで沖合に待たせて置くわけにはいかない。