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からさわのいわごやのあるよのこと

涸沢の岩小屋のある夜のこと

大島 亮吉

「登高行 第五年」1924(大正13)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,010 字 · 14 页

青空文庫

そうしてその真ん中の小さな岩小屋は自分たちのような山の赤ん坊の寝る揺籃みたいにおもえてしようがなかった。言い方が可笑しいかも知れないが、それほどいやに山が親しみぶかく見えたんだ。だけれど、ただひとつこのあまりの静かさが自分たちに歌を歌わせたり、笑い話させたりさせないのだ。たしかにこの時の山のムードと自分たちの気持とはハーモニイしていた。

自分たちの四人はみな黙っていた。けれどみなこういう気持でいることはよくお互いに知りきっている間柄だけにおのずとわかっていた。そしておのおののいま黙って考えていることが、ある一部の山を登るものにとっての必ず出っ喰わす大切なことであることも知っていた。自分たちは先刻夕餉を終えた後での雑談のあいだに、偶とその年の冬、自分たちの仲間とおなじようによく知り合っていたひとりの山友達を山で失っていて、その友達がその前の年の夏に自分たちと一緒にこの岩小屋へやってきて愉しい幾日かをすごして行ったときのことが、ちょっと出たのだった。そして自分たちはそれっきりで言い合したように、その話は避けてよしてしまったのだった。それから黙っているのだった。