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からさわのいわごやのあるよのこと
涸沢の岩小屋のある夜のこと
大島 亮吉
「登高行 第五年」1924(大正13)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,010 字 · 14 页
冷やかな山上の夜は自分たちのうえに大きくかかっていた。晴れきった漆黒の夜空のなかで、星が鱗屑のようにいろいろの色や光をしてきらめいていた。四人とも黙って岩に腰をかけたまま、じっと何かについて思い込んでいたりパイプばかりくわえて黙っていた。けれどもそれはこのような夜の周囲にはほんとにしっくりと合った気分だった。山は雨や風の夜のように底鳴りしたりしないので凄みはなく、圧迫的でもないけれど、あんまりおだやかで静なので、そこにひとつの重味のある沈黙というものを示していた。「山は時としてはその傍観者に自らのムードを圧しつけることがあると同時に、また傍観者はしばしば山が彼れ自らの気分と調和してくれるのを経験することがある」とマンメリイだかが言っていたが、そのときの自分たちの気持はたしかに後者のようなものがあった。自分たちのうしろにも横の方にも、闇のなかに真黒に岩壁や頂がぬっと大きな姿で突っ立っているけれど、自分たちにはこの時はちっとも恐ろしくも見えなければ、もの凄くも思われなく、むしろこのぐるりを半分以上もとり巻いている山を、親切な大きな風よけぐらいにしか、親しくおもえてならなかった。