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ふかがわにょうぼう

深川女房

小栗 風葉

「新小説」1905(明治38)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,597 字 · 57 页

青空文庫

「ついでにお茶椀も洗って来ましょうね」

「姐さん、あの、便所はどちらですの?」

「便所ですか? 御案内しましょう」

「はばかりさま」

女中は茶盆を持ってお光を案内する。

しばらくすると、奇麗に茶道具を洗い揚げて持って来たが、ニヤニヤと変に笑いながら、「ちょいと、あなたのレコなの?」と女中は小指を出して見せる。

「何が? 馬鹿言え」

「隠したって駄目よ。どこの芸者?」

「芸者だ? 馬鹿言え! よその立派な上さんだ」

「とか何とかおっしゃいますね。白粉っけなしの、わざと櫛巻か何かで堅気らしく見せたって、商売人はどこかこう意気だからたまらないわね。どこの芸者? 隠さずに言っておしまいなさいよ」

「ちょ! 芸者じゃねえってのに、しつこい奴だな」

「まだ隠してるよ! あなたが言わなきゃ俥屋に聞いてやる」

「俥屋が何とか言ってますか?」と背後からお光が入って来た。

「あら!」と女中は真赤になって、「まあ、御免なさいまし。いえね、お尻を振らずに俥屋は走れないものか、それを聞いて見ようとそう申して……ほほほほ。あなた布団をお敷き遊ばせ」と格にもない遊ばせ辞をてれ隠しに、そのままバタバタと馳せ去ったのである。