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せいしんあん

清心庵

泉 鏡花

「新著月刊」1897(明治30)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,494 字 · 26 页

青空文庫

真黒な線のようになって、横ぶりにびしゃびしゃと頬辺を打っちゃあ霙が消えるんだ。一山々々になってる柳の枯れたのが、渦を巻いて、それで森として、あかり一ツ見えなかったんだ。母様が、

(尼になっても、やっぱり寒いんだもの。)

と独言のようにおっしゃったが、それっきりどこかへいらっしゃったの。私は目が眩んじまって、ちっとも知らなかった。

ええ! それで、もうそれっきりお顔が見られずじまい。年も月もうろ覚え。その癖、嫁入をおしの時はちゃんと知ってるけれど、はじめて逢い出した時は覚えちゃあいないが、何でも摩耶さんとはその年から知合ったんだとそう思う。

私はね、母様がお亡くなんなすったって、それを承知は出来ないんだ。

そりゃものも分ったし、お亡なんなすったことは知ってるが、どうしてもあきらめられない。

何の詰らない、学校へ行ったって、人とつきあったって、母様が活きてお帰りじゃあなし、何にするものか。

トそう思うほど、お顔が見たくッて、堪らないから、どうしましょうどうしましょう、どうかしておくれな。どうでもして下さいなッて、摩耶さんが嫁入をして、逢えなくなってからは、なおの事、行っちゃあ尼様を強請ったんだ。