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こんとんみぶん
渾沌未分
岡本 かの子
「文芸」1936(昭和11)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,232 字 · 33 页
思えば都会偏愛のあわれな父娘だ。それがため、父はいらだたしさにさもしく老衰して行き、自分は初恋から卑しく五十男に転換して行く……。くらやみの中で自分の功利心がぴっかり眼を見開いているのに小初の一方の心では昼間水中で味った薫の若い肉体との感触を憶い出している……。
少したつと小初はまた起き上った。父の様子を見ようと裏口の窓を開けた。雨上りの夜の天地は濃い墨色の中にたっぷり水気を溶して、艶っぽい涼味が潤沢だった。下げ汐になった前屈みの櫓台の周囲にときどき右往左往する若鰡の背が星明りに閃く。父はあまり遠くない蘆の中で、カンテラを燃して数珠子釣りをやっている。洲の中の環虫類を糸にたくさん貫いて、数珠輪のようにして水に垂らす。蘆の根方に住んでいる小鰻がそれに取りつく、環をそっと引き上げて、未練に喰い下って来る小鰻を水面近くまでおびき寄せ、わきから手網で、さっと掬い上げる。環虫類も何だか虫の中では醜い衰亡者のように思えるし、鰻だとて、やはり時代文化に取り残されたような魚ではないか。衰亡の人間が衰亡の虫を囮につかって衰亡の魚を捉えて娯しみにする。その灯明り――何と憐れ深い情景であろう。